若き鷹の羽ばたき

作:澄川 櫂

9.会戦前

 艦が港外に出たところで、バーンシュタインは敬礼を解いて正面に向き直った。増速するゼブラークの鼓動を肌で感じながら、ゆっくりと大きく息を吐き出す。しばし無言で遠く右手に遊弋する艦艇を見つめていると、傍らに立つブルックナー大尉の、誰ともなしに呟く声が耳に届いた。
「……結局、ドズル閣下の姿はなかったな」
「仕方ないさ。オールスターの前じゃ目立たん存在だからな、俺らは。ラコック大佐の見送りを受けられるだけでも光栄じゃないか」
「それはそうだが……」
「補給の確約は貰えたんだ。優遇されている方だよ」
 不満げな顔の副官にそう応えて、再び正面に視線を戻すバーンシュタイン。
 各所の報告内容から、ソロモン要塞司令部では連邦軍の侵攻が近いものとの結論に達していた。だが、侵攻方位その他の詳細は不明であり、ソロモンは早期警戒網の強化に追われている。彼ら第751パトロール艦隊に課せられた新たな任務——哨戒を兼ねた遊撃行動——も、その一環で組まれた作戦であった。
 艦艇補充なしでの矢継ぎ早の指令。上陸して羽を伸ばす暇もない扱いを詫びたドズル・ザビ中将は、同席した参謀の一人に第751パトロール艦隊への補給計画立案を命じた。口頭ではない。正規の命令書にしたためての話だ。
 基地司令が直々に文書で補給を保証するというのは、実に重要な意味を持つ。幕僚に対して捨て石的で安易な作戦立案を戒めたばかりでなく、命を受ける側にもそれ相応の働きを求めたのだから。少なくとも、表向きにはそういうことになる。
(中将閣下御自身には、さほど深い意図はなかったのだろうが……)
 バーンシュタインをはじめとする第751パトロール艦隊の首脳部は、彼がサイド1の灰色熊グリズリー・オブ・ザーンとして名を馳せた頃の仲間が大半を占める。いずれも公国国民としての経歴は浅い。にもかかわらず、軍内部における扱いは悪くはなかった。バーンシュタインらに言わせれば、成果に見合った正当な評価を受けているに過ぎないのだが、古参の将兵の中にはそうは思わない者もいる。彼らにとって、第751パトロール艦隊とは「代価で動く傭兵部隊」も同然なのであった。
 彼と彼のチームを気に入ったドズル中将の、時折見せる粋な計らいが招いた誤解とも言えるが、中将自身がその因果を知ることはないだろう。豪傑を地で行くような方だ。それで生じる大方の問題は、副官を務めるラコック大佐が上手く片付けてくれる。
 出撃の見送りにドズル中将の姿が見えなかったのは、あるいは大佐の意図であったかもしれない。軍事上の理由が全てであり、依怙の沙汰も見下しも存在しないのだと示すのが目的で。
 そこまで思考を巡らせたところで、バーンシュタインは頭を振った。自分自身を鼻で笑う。
(解りもしない他人ひとの思惑に気を揉んでいても仕方ないな)
「どうした?」
「我々はしょせん、獣なのさ。野にあって獲物と戯れる方が、性に合っている」
 自嘲する彼に目敏く気付いて声をかけたブルックナーに、さらりと口にするバーンシュタインだったが、ふと思い付いて、
「そもそもお偉方の手元なんぞに置かれたら、じゃれた拍子に噛み付きかねないだろう?」
 と続けた。これにはブルックナーばかりでなく、他のブリッジクルー達の間からも忍び笑いがこぼれる。
「そういうことか」
「そういうことさ」
「なら、手ぶらで補給を受けるわけにはいかんな」
「ああ」
 納得した様子のブルックナーに頷くと、バーンシュタインは活気の戻った一同を鼓舞するように締め括った。
「期待に応えてひと狩りしてやろうじゃないか」

 開戦直後のジオンの電撃作戦によって壊滅し、死と静寂が支配するばかりとなったサイド4の宙域。地球連邦宇宙軍の第三艦隊に属する艦艇は、その眠りを妨げるようにして、続々と集結していた。各艦船の灯す信号は漆黒の宇宙そらを彩り、幾重に飛び交う通信は絶えることなく帯域を震わせる。
「識別信号確認。第13独立部隊です」
 膨大な情報の渦から必要最小限のデータを拾い上げるルース軍曹が、淡々と告げる。だが、その報告を聞いたガーランドは、ドリンクを飲む手を休めて首を傾げるのだった。
「ん? 予定では第24分隊が先ではなかったか?」
「それが、途中で会敵したのか、音信が途絶えているらしく」
「……敵もソロモンに籠ってばかりではないだろうからな」
 言いながら、チューブを離して手元のインフォメーションパネルを叩くガーランド。第24分隊の航路トレースデータを呼び出すと、確認できた最後の位置座標を戦術マップ上にプロットする。ソロモン第三戦闘ラインのこちら側で、赤い×印が点滅した。
「ソロモンからだいぶ離れていますね」
 操舵士のサリバン中尉が口にする。
「外部からの増援とも思えんが……。どうだ?」
「先刻受信した戦況データを見る限り、敵部隊が大規模に展開している可能性は低いと思われます」
「……ふむ」
 ルースがスクリーンに重ねた情報を見やって、ガーランドは肯いた。敵パトロール艦の定期ルート上における小規模な戦闘がほとんどで、数もさして多くない。第24分隊のケースだけが特異に見える。
「活きの良い遊撃部隊がうろついているのかもしれん。周囲の警戒を怠らぬよう、改めて各署に通達してくれ」
「モビルスーツ隊も索敵に出しますか?」
「いや、それは要請があるまで任せておこう。他ならぬ戦隊司令殿の計らいでもあるからな。ウィニペグとの情報連携を密に頼む」
「了解しました」
 予定通り集結ポイントに到達したヨークトンは、つかの間の休息気分にあった。ルナツー基地を発ったワッケイン司令率いる第三艦隊、通称ワッケイン艦隊の合流が完了するまでの間、ヨークトンとサスカトゥーンは主要な任務から外れることになったのである。戦隊司令のドゥアー大佐曰わく、ウィニペグ所属部隊の練成不足を解消するため、とのことであったが、戦闘続きだった両艦を多少なりとも休ませようとする意図があるのは明白だった。
「ブリッジより通達。左舷後方より第13独立部隊が合流。警戒任務中の各員は、引き続き周囲の監視を厳に願います。以上」
「コーネリア、君も適当に休憩を取ってくれ。いざ戦闘ともなれば、君を外す訳にはいかんからな」
 艦内放送を終えたルースに、ガーランドは声を掛けた。情報処理を担当するオペレーターの仕事は多い。こうして停泊している間も、なかなか息を抜けないのが実状だ。半舷休息とまではいかないが、交互に英気を養って欲しいと思うガーランドである。
「ありがとうございます。この計算が終わり次第、そうさせて頂きます」

「随分と変った形のふねだな」
 ヨークトン艦内に響いたルースの声に、手にした双眼鏡を第13独立部隊が合流する方角へと向けたミハイルは、見慣れぬ艦影を認めてそう口にした。前足の如く左右に突き出たブロックを持つ、ずんぐりした白い艦。
 と、
「あれ、確かペガサス級、て言うのよね。ホワイトベース、だっけ?」
「ジャブローに降りたって聞いたけど、宇宙そらに戻って来てたんだな」
 耳元でモニカとアルバートの声がする。荒てて双眼鏡を離して振り向くと、くすくす笑うモニカと目が合った。
「あんまり真剣に見つめてるもんだから、そっと忍び寄ってみた」
「も、もう済んだのか? 食事」
「もう、て、結構時間、経ってるわよ。よっぽど夢中だったのね」
 ミハイルの咄嗟の言葉に、モニカの表情がさらに綻ぶ。その明るい笑顔を間近にしたミハイルは、気恥かしくなってつい目をそらせた。続々と合流する本軍の多種多様な艦艇に、ワクワクしながら双眼鏡を巡らせたのは事実なので、返す言葉もない。
 モニカは声を出して笑った。
 艦長直々の休息指示を受け、モビルスーツ隊のパイロットは「展望室の警戒」任務に就いていた。待機ローテーションの都合上、食事がまだだったA小隊のメンバーを食堂に残し、先に展望室へと来ていたミハイルだったが、退屈の心配に関しては全くの杞憂に終ったようだ。
「隊長は?」
「待機ボックスへ行ったよ。守りを固めるリー少尉への差し入れ、とかなんとか」
「あー、そりゃしばらく、こっちには来ないな」
 アルバートの答えに、間延びした気分を隠せないミハイル。上官がいるといないとでは、おのずと緊張の度合も変ってくる。それはアルバートにしても同様だろう。彼の表情も心なしか和らいでいるように見えた。
「ねぇ、ヤンおじさんは?」
 一方、こちらは普段と変わらない様子のモニカが、きょろきょろと辺りを見渡しながら尋ねる。
「一口るって言ってたから、たぶん、向こうのベンチあたりに……」
「あ、いたいた」
 ミハイルに促されて反対側の窓近くに視線を転じたモニカは、そこに目的の人物の姿を認め、にっ、と歯を見せて流れて行った。ミハイルの反応によっぽど味を占めたようだ。
 ヤンの背後にそろそろと近付く姿を見やって、揃って小さなため息をつく二人。
「すまないな、ミハイル。悪乗りもほどほどに、とは言ってるんだけど」
「もう慣れたよ。てか、アルバートが謝ることじゃないだろう?」
「それもそうか」
 二人は顔を見合せると、どちらともなく笑った。ヤンの驚く声を耳にしながら、窓の外へと視線を戻す。ちょうど白い船体がヨークトンの左舷を通過するところだった。
「知ってるのか?」
「ルナツーに寄港したことがある艦だからね。遠目に眺めた程度には。ミハイルは、ジャブローでは?」
「ホワイトベース、て名前は何度か耳にしたけど、実際に目にするのはこれが初めてだよ」
 連邦軍初の本格的なモビルスーツ実戦部隊、ホワイトベース。その活躍ぶりは、ジャブローで訓練に明け暮れていたミハイル達にとって、一つの希望だった。ジオンのザクを凌駕する新兵器。それこそが、連邦軍のパイロットが欲して止まないものだったのだから。
 その噂に名高い部隊と戦場を共にすることになろうとは。感慨深い思いで通り過ぎる白い艦を眺めやる。と、隣でガラスに映るアルバートの、どこか遠い目で虚空を見つめる姿が目に入った。
「いや、新造艦ではモビルスーツデッキにカタパルト方式が採用されたと聞いて、皆でがっかりしたことがあったのを思い出してさ」
 不思議そうに顔を向けるミハイルの視線に気付いたのだろう。アルバートが静かに言う。
「せっかく完成させた着艦プログラムも役立ずかよ、てね」
 その言葉に、ミハイルはヨークトンが元はモビルスーツ運用技術確立のための実験艦であったことを思い出した。彼らによる地道な運用基礎データの蓄積なくして、今の新兵器の活躍はあり得ない。配備されて間もないモビルスーツを、こうして苦もなく宇宙で扱えるのも、歴代117中隊のたゆまぬ努力があったればこそ。
「そっか。こうやって宇宙でまともに戦えるのは、二人のおかげでもあるんだよな」
「自分らの貢献なんて、たかが知れてるよ」
 大真面目な反応をするミハイルに、アルバートが苦笑する。
 と、その時、
「あわわっ。ちょっとヤンさん、困ります」
 モニカの泡を食った声が二人の耳に届いた。見ると、いい感じにほろ酔い状態のヤンが、驚かされた仕返しとばかりにモニカに絡んでいる。実はヤンお得意のパフォーマンスなのだが、初めて接したであろうモニカはたじたじだった。
「たまにはこいつも良いもんだぜ、お嬢ちゃん」
「だから、その、私、強いお酒は……。アルぅ〜」
「少しは薬になったかな」
 目線でしきりに助けを求めていたモニカが、声に出して呼ぶに至ってようやく、アルバートは助け舟を出すことにしたようだ。それでいてのんびり流れて行くのは、ヤンが半ば冗談でやっていることに気付いたからだろう。やれやれといった感じで、ミハイルに肩をすくめて見せる。
 それをやや複雑な思いで見送ったミハイルは、ふと別の人間の気配を感じて振り向いた。
 展望室の入口から少し入ったところに、ドリンクチューブを手にしたルース軍曹がぽつんと立っていた。どこか寂しげな表情で、モニカ達の様子をじっと見つめている。
「どうしたんだ? 休憩しに来たんだろう?」
 迷った末にミハイルは声をかけた。我に返って振り向くルースは、ミハイルの姿を認めて少し嫌そうな顔になったが、すぐに頭を振ってため息をついたのは、ガーランドとの約束を思い出したからか。
 ルースは意を決したように頷くと、ミハイルの傍らに歩み寄ってドリンクを口にするのだった。
「ああしてると、二人はまるで兄妹みたいだな」
 真面目くさった顔でヤンに頭を下げるアルバートと、その後ろに隠れるようにして縮こまり、そっと様子を窺うモニカの姿を見て、ミハイルが正直な感想を口にする。
「……そうね」
 ルースは言葉少なに同意した。そして訪れる沈黙……。
 会話の接ぎ穂を探すミハイルは、上着のポケットに入れたままのものに気付いて、ルースにそれを差し出した。パイロット用の携帯食だ。
「食うか?」
「え?」
「ブルーベリーだから、疲れ目にも効くと思うけど」
「あ、ありがとう」
 成り行き上仕方なく、といった感じで包みを破って口にするルースだったが、ひと口かじって目を丸くすると、立て続けにぱくつき始めた。
 物資に余裕のない現在、宇宙艦で供される固形食品には残念なものが多いのだが、パイロットに間食として支給されるグラノーラバーは、奇跡的に美味かった。味と食感のバランスが絶妙で、賭けの代金として通用するほどの人気がある。
「いけてるだろ?」
「おやつで満足したのなんて久しぶりだわ。こんなパイロット特権もあったのね」
 空の包みをしげしげと眺めやるルース。彼女からようやく固さが抜けたのを知って、ひとまず満足するミハイル。
 そうして訪れた二度目の沈黙を破ったのは、意外にもルースの方だった。
「あのさ」
「ん?」
「その、先日はごめん……なさい」
 おずおずと頭を下げるルースの姿に、ミハイルは動揺した。まさかストレートな謝罪の言葉を聞けるとは思ってもみなかったからだ。
「ま……まあ、お手柔らかに頼むよ」
 辛うじてそう返すと、ルースは見るからにほっとした様子の顔を上げた。元々可愛らしい顔立ちのルースだが、そこに照れたような微笑みが加わるといっそう輝いて見える。
 こちらが彼女の地なのだろう。吸い込まれるように見とれてしまった自分に、ミハイルは無意識に頬をかいていた。
「なーにやってんだよ、コーネリア」
 まるでそのタイミングを見計らったように、つなぎ姿のロッドが飛び込んできた。勢いそのままにルースを抱えて流れて行く。
「ちょ、ロッド!?」
「せっかく揃ったんだから、俺らも交ざろうぜ」
 言いながら片目をつぶってみせるロッドに、ミハイルもまた頷く。ルースとの間にあった妙なわだかまりは、ひとまず解消したように思えた。
「良いもんだな」
「ええ」
 気を効かせて外したヤンの言葉は、ミハイルの受けた印象そのものだ。和やかに談笑し、互いにからかい合うサイド2ハッテ義勇軍の面々に、目を細める。

 ミハイルが母艦という言葉の意味を改めてかみしめていたその頃、にわかに活況を呈するサイド4の宙域を、暗がりよりじっと窺う視線があった。ありのままの光景を捉え、定められた形式で送り続ける人工の目。残骸の合間に設置された監視カメラ群だ。
 中継ポイントの一つに進出したゼブラークは、無人の監視ステーションより送られるレーザー信号を僚艦トチュニークへと転送しつつ、画像データの解祈を進めていた。
「木馬がいる」
 上がってきた静止画像の一つに、ブルックナー艦長がぽつりと口にする。
「コンスコン閣下の艦隊を破ったのか」
 その単語コードネームに、バーンシュタインは驚きを隠せない様子で振り向いた。ブルックナーがメインスクリーンに呼び出す画像を食い入るように見つめる。サラミス級の標準的な艦影に混じって、四肢と翼を備えた特徴的な形の艦が写っている。ゼブラークのデータバンクは、それが間違いなく“木馬”の呼称でジオン将兵に知られる艦、ホワイトベースであると告げていた。
「……勲章間違いなしの獲物だが、これだけの数の中に紛れているんでは、さすがに飛びかかる気になれんな」
「だが、どうなのかな。確かに数は多いが、ソロモンを正面から攻めるには足りない気がする」
「まだ数が増えるのか、それとも別に集結する艦隊があるのか。いずれにせよ、最終的な判断を下すのは、司令部の仕事だ」
 ブルックナーの感想に軽く応えて、バーンシュタインは腕時計を指差した。そろそろ補給艦との合流地点に向けて移動する時間だ。ブルックナーが頷く。
「中継ドローンの設置は済んでいるな?」
「ソロモンとのデータリンク、確立しています」
「全艦、作業終了。二十分後に現宙域を離脱する。最短ルートで合流ポイントへ向かうぞ」
「はっ!」
 復唱するオペレーターがメインスクリーンの画像を予定航路図に切り換える。そこに記された到達予想時刻に、ブルックナーは僅かに眉をひそめた。
「戦闘が始まるまでにソロモンへ戻るのは、難しいかもしれんな」
「なに、その時は後方を存分にかき回してやるさ」
「良いのか?」
「良いも悪いも、それが我々の任務だろう?」
「そりゃそうだが……」
「今さら焦ってみたところでどうにもならんよ」
 ブルックナーが不満に思う気持ちは、バーンシュタインにもよく解る。会戦は戦争の華だ。その主戦場を外れることは活躍の場を失うに等しく、軍人としては不本意なことこの上ない。
 開戦前後の一時期を除けば、バーンシュタインの部隊は概ね地味な作戦に従事してきた。“サイド1の灰色熊グリズリー・オブ・ザーン”として名を馳せた身には、正直なところ物足りない任務ばかりであった。それは長らく彼とチームを組んできたブルックナー達にしても同様だろう。
 ようやく巡ってきた機会を逃したとの思いは、バーンシュタインにもある。だが、同時に割り切ってもいた。自分はそうした星の下に生まれたのだ、と。
 そして、この時はむしろ、戦場を俯瞰できる位置で戦えることに感謝すらしていた。
「敵艦隊の動向はできるだけ掴んでおけよ。いざとなったら自分達だけが頼りだ」
 バーンシュタインがやや声を潜めて言うと、ブルックナーは驚いたように振り向いた。
「お前、劣勢だと見ているのか?」
「ソロモンが陥落することなどない、と信じてはいるが、戦争に絶対はないからな。流浪の憂き目にあわんよう、最底限の備えはしておきたいだろう?」
「……そうだな」
「ま、杞憂に終わればそれで良し。頼んだぞ」
 深く考え込むブルックナーの肩を軽く叩いて、バーンシュタインはブリッジを後にした。

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