GUNDAM SHORT STORY
作:澄川 櫂
ドッグ・ファイト!
「は? なんだって!?」
『MK.Ⅱがブースターにとりついたんだ! 発進を援護してやってくれ!』
「カミーユが?」
母艦アウドムラからの通信に、彼は耳を疑った。
シャトル用のブースターで宇宙へ上がるだって?
彼はもう一機のガルダ、スードリーへと目をやった。
白煙を上げるモスグリーンのその飛行艦に、MSはもはやない。あの黒いMAも、スードリーの土手っ腹に突っ込んだまま沈黙している。
ドダイ改に乗る彼のネモは、距離さえとっておけば落とされる心配もなかった。
「……できるのか?」
MSを失ったスードリーは特攻するつもりか、真っ直ぐアウドムラへと向かう進路を取っている。当然、両機の間に走る火線の量は凄まじい。飛び出す隙間などないように思えた。
『曹長! 右翼を!』
黙らせろと言うことだろう。
「了解!」
答えるや彼は機を突進させた。
対艦ドック・ファイト。かなり度胸のいる戦いだ。スードリーが迫る!
「うおぉぉぉぉっ!」
叫びながらライフルを3連射。機銃の一つに命中したようだが、確認することなく、彼は火線の谷間を一気に抜ける。思い切った行動をとらなければ落とされるからだ。
MSを単独で扱う宇宙とは違い、地球の空中戦では“下駄”と呼ばれるサポート機を必要とした。MSでの使用を前提に設計されているので扱いにくいと言うことはないが、どうしても動きが大回りになる。
航跡を銃火が追う。
「クッ……!」
軽い振動に顔をしかめる。何発かかすめたようだ。が、気にしている暇はない。
「ええい!」
意味もなく吐き捨てると再び直進。スードリーに向かって機を突っ込ませた。上甲板の砲台を黙らせ左翼へ抜ける。
と、視界の端に赤い機影が映った。リック・ディアスだ。なかなか取りつけないらしい。
「大尉!」
スードリーからはディアスと、そしてブースターにまたがるMK.Ⅱに向かって、幾重にも砲火が伸びていた。ディアスはともかく、ブースターを撃つなど正気の沙汰とは思えない。カミカゼをやるにしても、先に艦が沈んでは元も子もないだろうに。
しかし、ブースターの上にはMK.Ⅱがいる。黙らせなければ!
「……ッ!」
迷わず、彼はスードリーとブースターの間に機を入れた。すれ違いざまに無言で一射!
バッ!
閃光が散った。彼がそれを確認したとき、
ドゥッ!!
ブースターに灯が点り、そしてガンダムは、一条の雲を残して宇宙に消えた——。
「大尉、ご無事で?」
『済まない。……行ったか?』
「はい……」
着水したディアスを引き上げると、彼は空を見上げた。先ほどまでの戦いが嘘のように穏やかで、ブースターの航跡も、すでにそこへ溶け込もうとしている。
「……帰投します」
しばしその光景に心を休めると、彼はスードリーの残骸が浮かぶ海上を後にした。彼らを収容するアウドムラは、オレンジ色の巨体をゆっくりと空に向け傾けていった。
※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。