星のかけらを集めてみれば - 記憶のかけらは風に乗って -
作:澄川 櫂
プロローグ はじまりの記憶
あたしの記憶は、お婆ちゃんに拾われたあの日にまで遡る。
「つ、角があるぞ。この赤ん坊」
「オニだ、オニの子だ」
「オニは村に災いをもたらす」
自分を取り囲む大人達の怯える顔が見える。まだ言葉を理解する歳ではなかったはずだけれど、彼らの話していた内容は、はっきりと覚えている。
「オニの子だ。災いが村にやって来る」
「災いの元を断て!」
「オニを生かしておくな!」
「どこにオニがいるんだい」
そんな大人達の間から進み出た一人の老婆が、そっと自分を抱え上げた。星空に捧げるように高く上げ、優しい瞳で自分を見上げる。
「この子はオニなんかじゃないよ。歴としたヒトの子じゃ」
「ばば様。でも、その赤ん坊には角が……」
「角くらいなんさね。べっぴんさんじゃないか」
そう言って、顔の高さに自分を降ろして微笑む老婆。深いしわと相まって、顔中が笑っているように見える。大好きだったお婆ちゃんの顔。
「決めた。あたしがこの子を育てるよ。構わんな? レド」
「ミトが言うなら異存はないさ」
「村長!?」
「ミト婆は我らが“道を占うもの”ぞ。その言を疑うのか?」
戸惑う大人達を一喝した声の主が、自分の顔を覗き込む。口髭を蓄えた厳つい壮年の男は、そこだけが柔らかい色を湛えた瞳でじっと自分を見つめる。優しいレドおじさん。
「本当に可愛い娘だな」
「じゃろ?」
「して、名は何とする?」
「そうさなぁ……」
お婆ちゃんは少し考えると、
「ミーナ。そう、お前さんの名前はミーナじゃ。どうじゃ、よい名だろう?」
と言った。その問いかけに応えて、あたしは笑った。お守りを握る小さな手を差しだし、ばぁば、と、声にならない声でお婆ちゃんに話しかける。
「おお、そうか。気に入ったか」
お婆ちゃんも笑って応えてくれた。自分を胸元に抱え、優しく揺らしながら歩き出す。
「さあ、ばばの家へ行こう。お腹も空いたろ?」
それが、星降る夜のはじまりの記憶——。
© Kai Sumikawa 2013