機動戦士フェニックス・ガンダム
作:FUJI7
19 間隙
テスのF型はスマートガンを撃ちながら突っ込んでくる。GMの砲撃は、ネチネチとテスの援護をしている。
ジャンはあのGMから始末するべきだ、と判断した。援護射撃にしては砲弾の数が多い。相当の弾数を保持しての出撃……ということは、テスにしてみれば、自分達ZPlusは囮で、GMの散弾による攻撃こそがフェニックスへダメージを与える本命……。
思うよりも早く、ジャンはフェニックスの翼を展開させる。推力が集中する。翼は金色の機体よりも輝き、やがて発熱した朱になる。
《!》
見抜かれた、とのテスの意識。テスは突っ込むことを止め、変形をし、グレネードをジャンのフェニックスの軌道上に撃つ。
直撃! だが、フェニックスを覆っている、発熱したミノフスキー粒子は、機体に被害を与えない。
「てぇぇぇ!」
ジャンはGMの直前で機体を停止させ、シャクルズのコックピットを蹴り、潰す。ビームガンと兼用のサーベルを発振させると、GMのコックピットを貫く。
《鮮やかだ!》
ナナの感嘆が聞こえる。
ジャンはシャクルズを土台にして、そのままジャンプする。下方からはZPlusのウェイブライダーが迫る。
所詮、Zガンダムは直線的な動きしか出来ない。その、評価すべき点は、機体を速やかに戦線に投入できることだけで、それ以外にはメリットが少ない。
その特性を熟知しているナナは、フェニックスの翼を光らせて、ジャンの下方のZPlusの上に乗った。
《!》
装甲から驚きが。それはそうだろう。どこのモビルスーツが、高速移動中のウェイブライダーと接触できる? それもサーファーのように?
その驚きが消えぬまま、ZPlusのパイロットは、ナナの放ったビームに焼かれた。ゼロ距離射撃だった。
《小癪な!》
テスの声。ジャンはテスの憤りを無視して、散弾を撃ち続ける他のGMに迫る。
狂ったようにバズーカを撃つGM。恐怖が伝わる。が、照準を当てていない砲弾に当たる筈もない。シャクルズの下から回り込み、ビームガンを一閃。
大量の弾薬を抱えて飛んでいたGMとシャクルズは大音響と共に爆発する。
悪魔め! と、テスは罵る。
「GMは下がれ!」
このままでは不利だ。そう判断して後退を命じる。
《逃がしゃしないよ!》
ナナがもう一機のZPlusを撃墜して、テスに向かう。気分は最高だった。隣にエイトがいて、一緒に戦い、『敵』を撃退している。これ以上の昂揚があろうか?
《クッ……》
テスは唇を噛む。このままでは自分も落とされる。悔しい……と。
<この場は逃げることだ!>
テスはバーニアを使い、落下する。スピードを付けて、ウェイブライダーに変形し、振り切る腹づもりだ。
変形! 地表スレスレで機体を起こし……。
「グワッ!」
操縦桿を上げた矢先、テスは信じられないものを見た。
「ナナ……!」
振り切った筈なのに……という落胆が滲む。赤いフェニックスが、ウェイブライダーの機首を捕まえていたのだ。
「さよなら、おばさん」
ナナは優越感からそう言った。これでエイトを巡る因縁は断ち切れる。その安心感もあった。勝ち誇っていたのだ。
その気分は、ナナの注意力に大穴を開けていた。
《危ない!》
ジャンは叫んでいた。
「なに!?」
ナナが振り向いた刹那、滅茶苦茶に撃ったのだろう、散漫なGMの散弾が機体後部に当たった。致命傷ではなかった。だが、テスが反撃にでるには充分なタイミングだった。
テスのF型は掴まれたまま変形し、脚で赤いフェニックスを蹴っ飛ばした。
「うっ!」
ナナは呻く。
F型は、フェニックスのマニピュレータを振り切ると、両手にビームサーベルを持ち、勢いに任せてめった切りする。テスも錯乱していたのだ。
「あっ!」
ジャンは叫ぶ。
「邪魔!」
ジャンは狙える距離にいたGMに、数発、ビームを撃ち込んだ。直ぐに振り返り、ナナのところへ向かう。GMの爆発音を背後に聞く。
ジャンは怒っていた。そのオーラ……念波に近いもの……は、サイコミュを通じてテスに恐怖の感情を喚起させる。
「ヒッ……」
逃げなければならない、とテスは咄嗟に思った。ビームサーベルを放り出し、赤いフェニックスに接触しそうな距離で変形を始める。
ガチン、と機体前部に回ったバインダーがフェニックスに接触し、その勢いでフェニックスは落下する。慌ててテスは脚部のスラスターを全開させる。一瞬、空中に止まるような間の後、猛烈な勢いでF型は上昇を始めた。
テスの機体が一瞬止まったとき、ジャンは狙撃をしようとしていた。だが、落下しつつあるナナを放ってはおけない。赤いフェニックスは致命傷には思えなかったが、仮にもビームサーベルでめった切りにされたのだ。被害がコックピットに及んでいないとは限らない。
故にジャンは、戦果よりもナナの命を尊重したのだ。実際、モビルスーツより遥に高価な強化人間を優先するようにプログラミングされていたから、でもあった。経済性を重んじているとも言えたが、人命の方が優先するのは当然のことだ。
「急げ!」
ジャンは口に出し、念を送り、サイコミュは素早く反応し、金色のフェニックスは羽根を展開し、大量のミノフスキー粒子を散布し、反発作用とスラスターを利用して、落下する赤いフェニックスを受け止めようと機体をいじめる。
対Gコックピットである筈だが、一瞬、ビビビ、と顔が震える。
二機のフェニックスは相対速度を合わせ、ジャンは腕(マニピュレータ)を操作して赤いフェニックスを抱えるような格好をする。
「火……」
小さく、火が見えた。推進剤に火が回るかも知れない。衝撃も与えられないだろう。ジャンは赤いフェニックスを抱えたまま、ゆっくりと、慎重に、それでいて気持ちを急がせて着地した。
「!」
ジャンはコックピットの装甲を開け、マニピュレータを操作し、ナナのいるコックピットに寄せる。
焦っている。いつ、爆発するのかわからない。
内側からハッチが開けられる様子はない。気絶しているのか、あるいは……。
そんな想像はしたくなかった。
ハッチ脇のコンソールから、ハッチオープンの命令を出す。
が、暗号コードだった。
「どうして!」
ジャンは叫んだ。
汎用コードではダメだ。ナナは自分で暗号を変えている。
「ナナ?」
思い立って、『77777777』と入力してみる。大低は八桁にするのが慣例だから。
しかし、開かない。
「ああ!」
顔のカメラ・アイが内部の電流のショートによって、小さく、ボンッ、と音を立てて割れた。
「ああ!」
暗号、暗号……。
ジャンは再び思い立ち、『88888888』と入れてみる。これは金色のフェニックスのオープン暗号だ。
プシュ……
胸の装甲が開いた。ナナは、ジャンと同じ番号にしていたのだ。ナナの、ジャンへの思い入れを示す事柄だが、当のジャンに、今はそんなことを考えている余裕はなかった。
赤いフェニックスのコックピットへ飛び降り、忙しくシートベルトを剥がし、ぐったりしているナナの華奢な身体を持ち上げると、再び、手を差し伸べているような格好の、金色のマニピュレータに飛び乗る。
ぐーん、と、ゆっくり動くマニピュレータがもどかしい。今にも爆発するかもしれない。
「………………!」
イライラが募る。
やっと、コックピットに到着する。ジャンはナナを抱えたままリニアシートに座ると、ハッチを閉めることなくフットベダルを蹴飛ばした。
素早く後方にジャンプする。
と同時に、赤いフェニックスの胸部が火を噴いた。
胸部の火は収まらず、動力炉に火が回る。小爆発。
その火は脚部に回る。
ドッ、と脚が爆発。
再び胸部。動力炉の周辺の推進剤にも引火する。炉は圧力の限界を越え、赤いフェニックスは、その機体カラーよりも赤い炎と、黒い煙に包まれた。
「チッ!」
ジャンはコックピットハッチを閉める。
ドーン! と大音響。
軽度の放射線が検出された旨の表示がパネルに出る。軽度とはいえ、勿論、この程度の放射線でも、時には危険なレベルの被曝をする。
ジャンはナナの華奢な身体を見る。
<ああ、死んじゃったのか? 死んじゃったのか?>
ナナの呼吸を確認しようと、ジャンはナナの口元に耳を持っていく。
※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。